警備業界で働く人の高齢化が進んでいます。
警察庁が公表した2025年末時点の「警備業の概況」によると、全国の警備員数は59万6985人となり過去最多を更新しました。
その一方で、年齢構成を見ると「70歳以上」が12万9012人、全体の21.6%を占め、年齢区分の中で最も多くなっています。
さらに、警備業では労働災害も多く発生しています。
厚生労働省によると、2025年の警備業における休業4日以上の労働災害による死傷者は2360人。1988年以降で最多となりました。
そして夏場に特に注意したいのが熱中症です。
2025年の警備業における熱中症による死傷者は199人。死亡者は3人で、建設業の5人に次いで業種別で2番目に多い数字となりました。
なぜ警備業では、これほど労災や熱中症が発生するのでしょうか。
## 警備員は「70歳以上」が最も多い
まず注目したいのが、警備員の年齢構成です。
警察庁の2025年「警備業の概況」によると、警備員の年齢別では70歳以上が12万9012人で最も多く、全体の21.6%を占めています。
60歳以上を合計すると、警備員全体の47.3%。
つまり、警備員のおよそ2人に1人が60歳以上という構成です。
一方で、30歳未満は6万5028人。
警備業は現在、人手不足を補ううえで高齢者の力に大きく支えられている業界だと言えます。
もちろん、年齢が高いことだけを理由に「危険」と判断することは適切ではありません。
豊富な経験や責任感、現場対応力など、高齢の警備員が持つ強みもあります。
問題は、
**年齢や体力に合わせて仕事内容や安全管理を調整できているか**
という点です。
## 警備業の労災死傷者は2360人
厚生労働省の2025年労働災害統計を見ると、警備業の休業4日以上の死傷者は2360人でした。
これは前年比272人増で、厚生労働省の統計で確認できる1988年以降で最多です。
事故の型を見ると、最も多かったのは「転倒」で1020人。
全体の4割を超えています。
次いで、
* 交通事故(道路)296人
* 動作の反動・無理な動作245人
* 墜落・転落243人
となっています。
ここから見えてくるのは、警備員の労災が必ずしも「大きな事故」だけで発生しているわけではないということです。
日常的な移動。
立ち仕事。
道路上での誘導。
段差や路面の確認。
無理な姿勢。
こうした現場での小さなリスクが積み重なっています。
## 60歳以上が労災死傷者の57%
さらに警備業の労災を見るうえで重要なのが年齢です。
2025年の警備業の労災による死傷者2360人のうち、60歳以上は1345人。
全体の57.0%を占めています。
内訳を見ると、
* 60~64歳:309人
* 65~69歳:313人
* 70~74歳:348人
* 75歳以上:375人
となっています。
ここで注意したいのは、
**「高齢者だから労災が起きる」**
と単純化してはいけないことです。
警備業ではそもそも高齢者の就業割合が高いため、労災の年齢構成にもその影響が出ます。
だからこそ必要なのは、高齢者を一括して危険視することではなく、
**高齢者が多い業界だからこそ、それに合わせた安全管理を行うこと**
です。
## 熱中症による死亡者は「業種別2位」
そして、夏場の警備現場で特に注意しなければならないのが熱中症です。
厚生労働省によると、2025年に職場で発生した熱中症による死傷者は全国で1803人。
統計開始以来最多となりました。
一方、死亡者は19人で、前年より12人減少しています。
この数字だけを見ると、死亡者は減っているように見えます。
しかし警備業に絞ると状況は深刻です。
2025年の警備業の熱中症による死傷者は199人。
死亡者は3人でした。
業種別では建設業の5人に次いで2番目に多い数字です。
しかも、警備業の熱中症による死傷者数199人は、厚生労働省が業種別統計を確認できる2010年以降で最多でした。
## なぜ警備員は熱中症になりやすいのか
警備員の仕事には、熱中症のリスクを高める条件がいくつもあります。
特に交通誘導警備では、
* 屋外で勤務する
* アスファルトからの照り返しがある
* 長時間立った状態になる
* 制服・装備を着用する
* 交代や休憩のタイミングが現場に左右される
* 車両や工事機械の近くでは風が遮られる場合がある
など、暑さの影響を受けやすい環境になります。
さらに、警備員は「現場を離れにくい」という仕事上の特徴があります。
交通誘導の途中で、
「ちょっと体調が悪いから休みます」
と簡単に持ち場を離れられないケースも考えられます。
ここに熱中症対策の難しさがあります。
## 「本人が我慢する」ことが危険につながる
警備業の熱中症対策で重要なのは、
**本人の自己管理だけに頼らないこと**
です。
熱中症は、本人が「まだ大丈夫」と感じている段階から症状が進行する可能性があります。
そのため、会社側が定期的に体調を確認し、異変があれば早期に作業を中断できる仕組みを作ることが重要です。
厚生労働省も、2025年6月1日から労働安全衛生規則を改正し、熱中症のおそれがある作業について、
1. 早期発見のための報告体制を整備する
2. 重篤化を防止するための措置・手順を作る
3. その内容を関係する作業者に周知する
ことを事業者に義務付けています。
つまり現在は、
**「具合が悪くなったら本人が上司に言えばいい」**
という考え方では不十分です。
会社として、誰に報告するのか、どこへ避難するのか、どう冷却するのか、医療機関へどう搬送するのかまで、あらかじめ決めておく必要があります。
## 警備会社が現場で取り組むべき5つの対策
では、実際に警備会社は何をすればいいのでしょうか。
### 1.WBGTを確認する
気温だけではなく、湿度や輻射熱などを含めて暑熱環境を評価する「WBGT」を確認します。
同じ気温でも、湿度や日差しによって身体への負担は大きく変わります。
現場の温度計だけを見て「今日は大丈夫」と判断するのではなく、WBGTを基準に作業内容や休憩の取り方を考えることが重要です。
### 2.休憩を「本人任せ」にしない
暑い現場では、警備員本人が「まだ大丈夫」と考えて休憩を先延ばしにする可能性があります。
そこで、
**一定時間ごとに必ず休憩する**
というルールを設定することが重要です。
特に高齢者が多い現場では、個人差を考慮した勤務計画が必要になります。
### 3.バディ制などで互いに確認する
厚生労働省は、熱中症の早期発見方法として、2人以上の作業者が互いの健康状態を確認する「バディ制」などを推奨しています。
警備現場でも、
「顔色がおかしくないか」
「受け答えがおかしくないか」
「普段より動きが遅くないか」
などを互いに確認する仕組みは有効です。
一人で長時間勤務させるのではなく、可能な現場では定期的に状態を確認できる体制を作ることが重要です。
### 4.「異変があれば即離脱」を徹底する
熱中症が疑われる場合、
「あと30分だけ」
「交代の人が来るまで」
と我慢させないことが重要です。
厚生労働省の指針では、作業からの離脱、身体冷却、必要に応じた医療機関での診察・処置など、重篤化を防ぐための手順を事前に定めることが求められています。
### 5.高齢者だからこその勤務設計を考える
高齢者を一律に屋外勤務から外す必要があるという話ではありません。
重要なのは、
**「その人の年齢・体力・健康状態に応じて、無理のない勤務を組めるか」**
です。
休憩時間を長くする。
連続勤務時間を短くする。
日陰や空調のある休憩場所を確保する。
比較的負担の少ない業務へ配置する。
必要に応じて医師等の意見を踏まえ、就業場所や作業を変更する。
こうした柔軟な管理が、高齢化する警備業界ではますます重要になります。
## 「警備員が高齢だから危険」ではない
今回の数字を見ると、
「70歳以上が最多」
「60歳以上が労災死傷者の57%」
という非常にインパクトのある数字が並びます。
しかし、ここから「高齢警備員は危険だ」と結論付けるのは適切ではありません。
むしろ考えるべきなのは、
**「高齢者が約半数を占める業界なのに、若い人を中心とした従来型の働き方をそのまま続けていないか」**
という問題です。
警備業は人手不足の中で、多くのベテランや高齢者によって支えられています。
ならば、その現実に合わせて、
「高齢者でも安全に長く働ける仕事」
へ現場を変えていく必要があります。
## 警備会社に求められるのは「根性論」からの脱却
警備の仕事では、
「暑くても現場に立つ」
「交代するまで頑張る」
「昔はこのくらい普通だった」
という考え方が残っている現場もあるかもしれません。
しかし、現在の暑さと高齢化した労働力を考えると、こうした考え方だけでは安全を守れません。
警備員本人の我慢に頼るのではなく、
**会社が休ませる。**
**責任者が体調を確認する。**
**異変があれば現場から離脱させる。**
**必要なら救急要請する。**
という仕組みに変えていくことが重要です。
これは警備員を甘やかすことではありません。
警備員自身を守ることが、結果的には警備を依頼する顧客や一般市民を守ることにもつながります。
## これからの警備業は「高齢者が安全に働ける仕組み」が競争力になる
警備業では今後も人手不足が続くと考えられます。
その中で70歳以上の警備員が21.6%を占めるという現状は、警備会社にとって大きな意味を持ちます。
「高齢者を採用するか」という段階は、すでに過ぎつつあります。
これからは、
**「高齢者が安全に働き続けられる会社をどう作るか」**
が重要になります。
熱中症対策もその一つです。
休憩場所を整備する。
WBGTを活用する。
勤務時間を調整する。
体調確認を行う。
バディ制を導入する。
緊急時の対応手順を決める。
こうした対策は、熱中症だけでなく転倒や交通事故など、さまざまな労災の防止にもつながります。
## まとめ
2025年の警備業では、警備員数が過去最多となる一方、70歳以上が最も多い年齢層となり、60歳以上が全体の約半数を占めています。
そして労災による死傷者は2360人と過去最多。
熱中症による死傷者も199人と多く、死亡者3人は業種別で2番目に多い数字でした。
これらの数字が示しているのは、「高齢者が警備員になることが危険」ということではありません。
むしろ、
**高齢者が多く働くことを前提とした安全管理が、警備業界には必要になっている**
ということです。
特に夏場の屋外警備では、警備員本人の自己管理だけに任せるのではなく、会社・現場責任者・同僚が一体となって異変を早期に発見し、作業を中断できる仕組みを作ることが重要です。
警備業界が今後も人手不足を乗り越え、経験豊富な人材に長く働いてもらうためには、
**「人を集める」だけではなく、「人が安全に働き続けられる現場を作る」こと**
が必要になるでしょう。
### 参考・出典
本記事は、警察庁「令和7年における警備業の概況」、厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」および「令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」を一次情報として、警備業界における高齢化、労災、熱中症の関係を整理し、警備現場での安全管理という観点から独自に編集・考察したものです。
[警察庁「事業統計(警備業)」](https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/toukei.html?utm_source=chatgpt.com)
[厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」](https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73382.html?utm_source=chatgpt.com)
[厚生労働省「令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」](https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73330.html?utm_source=chatgpt.com)
[厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」](https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc9174&dataType=1&pageNo=1&utm_source=chatgpt.com)